起業の科学を読んでそのポイントをまとめていく part2
今回は前回の「1−1スタートアップにとっての良いアイデアとは」の続きです。
1−2 スタートアップのメタ原則を知る
スタートアップとスモールビジネスの違い
1成長方法:スタートアップはキャッシュが一旦右肩下がりに落ち込んだ状態からjカーブを描き、成功した暁には巨額のリターンを短期間で産む。スモールビジネスは従業員を増やしたり、店舗を拡大したりするなどして初期から一次関数的に成長していく。
2市場環境:スモールビジネスはすでにある市場をターゲットにする。一方でスタートアップは市場が存在するのか確認されておらずその前段に当たるアイデアの発見と検証から始める必要がある。市場が不確実であるがゆえ、参入のタイミングが重要であり、なぜ今やる必要があるのかという問いに対して合理的な説明が必要。
3スケールへの姿勢:スタートアップはある一定の規模を超えた瞬間にネットワーク効果と規模の経済性が働き、一気に市場を席巻して二次曲線的に成長することが運命付けられた取り組み。
4ステークホルダー:スタートアップに資金提供するのはVCやエンジェル投資家であり、スモールビジネスに資金提供するのは銀行や信用金庫。VCは出資した額に対するキャピタルゲインを求めるので一気にスケールする可能性のあるスタートアップしか相手にしない。金融機関はインカムゲインを求めるので業績をベースにした堅実な収益予測の立つビジネスモデルしか相手にしない。
5対応可能市場:商圏が限られているビジネスはスタートアップではない。地理的制約があると指数関数的に成長できない。
6イノベーションの手法:スタートアップのイノベーションは既存市場を覆す破壊的なものが多い。一方スモールビジネスは既存市場に対して着実な改良を加えていく持続的イノベーション。
スタートアアップは「スケーラブルで再現性のある利益を生み出すビジネスモデルを模索する一時的な組織」。つまり、スタートアップはpmfを達成してスケールする段階になったら、経営効率を追求する一般企業に変わる必要がある。
pmfを達成してユニットエコノミクス(一人当たりの採算性)を健全化できたら大企業が参入してくる前に一気にスケールして市場を席巻するのがスタートアップの戦略。
スタートアップ創業者は97%のことにNOという必要がある
成功するために避けるべき行動パターンは以下
1詳細なビジネスプランを作る
最初の思いつく課題仮説やソリューション仮説は顧客のフィードバックを得てガラリと変わることも多い。プロダクトのスプリント(継続的な改善)やピポットが日常的に起こる。
詳細なプランを作るとそれを達成することが正解だという前提で進んでしまい、課題仮説やソリューション仮説を検証することが徹底できなくなってしまう。
2正確なファイナンシャルプロジェクションを用意する
PMF前に資金面の計画を作ろうとすることも無駄。売り上げの見通しが高まるシリーズA,Bの投資を受ける段階であれば重要になるが、アイデアん検証をしているようなシード期では意味がない。
3精緻なリポートにこだわる
定型的な考察は結果報告は必要なく、顧客意識の深掘り、潜在的課題の発見、市場に隠れていそうなアイデアのヒントなどを探していち早くメンバーに報告することの方が重要。
4まあまあ好かれるプロダクトを大勢の人向けに作る
ターゲットとする市場で圧倒的なシェアを取るためには、大勢に対してまま評価されるのではなく、一部の人に熱狂的に好かれるプロダクトを作る。
5詳細な仕様書の元に開発する
いかに早くスプリントのサイクルを回せるかが勝負になるので詳細な仕様書などいらない。
仕様書をかくと顧客から離れた存在となってしまうので、チーム一丸となって顧客と対話し続ける方が大切。
6最初に想定したビジネスモデルに執着する
スタートアップのビジネスモデルは顧客の反応によって常に覆されることを前提に作っていく必要がある。
7競合を意識しすぎる
いくら競合の動きを追っても独自の顧客インサイトを見つけて競合に優位に立つことはできない。
8差別化を意識しすぎる
作り手側のロジックになってしまうことが多い。
9nice to haveな機能を追加する
大きな課題を解決できるmust to haveな機能に絞って徹底的にその実現に取り組む。
10最初からプロダクトデザインやユーザビリティーの細部にこだわる
完成度70%くらいでローンチして顧客のフィードバックを得る
11最初からシステムの自動化を行う
最初からスケールするときのことを考えるのではなく、最初は検証に時間をかける。
検証が十分にできてからプロトタイプの開発を行う。
12ビジネスモデルが出来上がる前から積極的に人を誘う
ビジネスモデルを模索しているPMF前の段階では、その会社で必要なプロセスやメンバーの役割分担の切り分けは不透明な状況が続く。ビジネスモデルが変われば、人材の質や配分も全く変わる。よってビジネスモデルができていない段階で積極的に人を雇うのは誤り。
スタートアップはファウンダー、そして社員10人程度までの初期段階ではメンバーがどんな仕事でも分け隔てなく全てするという気概が必要。仕事を選んではダメ。
特に、特定のスキルに秀でた人材を早くに雇うとそれがソリューションそのものに直結し、ソリューションドリブンになってしまう。ピボットで必要要素が変わる前提にメンバーの人選を行う。
例えば、市場検証のために機能を最小限に絞った製品(MVP Minimum Viable Product)を作る段階で画像認識アルゴリズムの専門家をチームに入れて、後から音声認識のが重要となったら無駄になってしまう。そういう意味で技術全般を幅広く理解できる汎用能力の高いCTOを招き入れることは非常に重要。
13直接関係のないネットワークイベントや飲み会に参加
起業家がまず会いにいくべきは顧客であり、次は自分と一緒にスタートアップに参画してくれそうな仲間である。
14経歴が立派な営業責任者や事業開発担当者を雇う
それなりのお膳立てが必要となりハイリスク。必要なのはマネージャーではなくDoer。
15ビジネスモデルの検証が終わる前にパートナーシップや独占契約を結ぶ
少数の受託契約で事業を回す下請けになってしまうことが多い。特定の企業との関係性に依存するのはハイリスク。
16セールスよりもマーケティングにフォーカスする
プロダクトを磨き込んでからメディアに取り上げられないと、不完全な状態で世に知られることになる
17仕事の役割を厳密に設ける
メンバー間の密なコミュニケーションが大切で、得意不得意のみを基準にした縦割りの役割分担を持ち込むべきではない。創業メンバーは事業に関する全てを常に学び続ける必要がある。
18NDA(機密保持契約)を結ぶ
投資家とスタートアップの世界は紹介文化。情報交換の兼ねた投資家同士のコミュニケーションは盛んに行われている。
またアイデア自体には意味がない。「アイデア自体は安いもので、それをどう実現するかがプロダクトの価値の全てだ」この視点を忘れてはいけない。
19受託開発や業務委託を必要以上に受ける
IT系のスタートアップが運転資金を確保するために受託開発やコンサルティングをやるのは正当化できる。しかし、間違っても本業をおろそかにせず、長期のプロジェクトは避ける。
できるだけ早いタイミングでリーディングアベニュー(本業からの売り上げ)に軸足を移す。
20業界専門家のアドバイスに頼る
最終判断はオーナーがするもの。
21VCに積極的にアプローチする
PMFを達成してトラクション(推進力)がある程度出てくるまではVCに積極的にアプローチしたりピッチイベントに登壇したりする必要はない。
PMFを達成して事業がスケールできる蓋然性が高くなった時に、調達を始めた方が交渉を圧倒的に進めやすい。
そもそも有望なスタートアップはVC界隈で噂がすぐに広まるのでVCから声をかけてくる。VC側から自然にオファーがくるくらいまでプロダクトを必死にみがきこむことが重要。
課題とソリューションの検証が済んで、方向性が見えてから資金調達を本格化する。
最大効率で結果を出さないと淘汰される運命のスタートアップはfakejobをしている暇はない。fakejobとは本来必要のない仕事のこと。
「正しい問題に取り組む方が、一生懸命取り組むことよりもはるかに重要」
専念すべきはカスタマーが痛みを抱える課題の専門家になり、カスタマーに愛されるプロダクトを作るだけ。
PMFを達成する前はカスタマー自身も言語化できていない深い潜在的な課題に気づき、それを言語化、構造化して真因を見つけて、解決するプロダクトを作ることに90%の時間を割くべき。
PMF達成前は体裁を気にしない。スケールする段階になれば採用の兼ね合いで多少の体裁は大事になるが最初にフォーカスすべきはそこではない。
「スタートアップは極端に直感に反する」
従来の常識を無自覚に踏襲することは危険でむしろunlearn(念頭から払う)必要がある。
以下が念頭から取り払うべき従来の常識。
1正しい答えがあると思う
新しい問題の設定とそれに対するユニークな答えがスタートアップの目的
2上司にうまく報告する
報告書づくりなど不要
3多くの人から好かれようとする
自分を良く見せることや、認められないという承認欲求を捨てる。
4少しずつ改善する
コツコツと細かい改善を繰り返すよりも一気にピポットした方が良いケースも多い。
コツコツした努力が必要になるのはPMFへの勝ち筋が見えた後。
5多数の競争相手の中で1番になる
競争相手が少ない領域をせめて、そのニッチな市場を席巻することを優先すべき。
6予算消化
資金調達でまとまったお金が入ると気が大きくなって無駄な投資に走る起業家も多い。
投資家から不信感を買うことにつながる
7最初から広い市場を狙う
まずは小さな市場から独占するのが定石。
8うまくいかなかったことを誰かのせいにする
責任の所在を明らかにする必要はあるが、誰が失敗したのかにとらわれすぎると失敗を恐れる企業文化となってしまう。本当に大切なのはなぜ失敗したのか。
今回は以上です。
次回は「1−3アイデアの蓋然性を検証する」です。