起業の科学を読んでそのポイントをまとめていく part6
今回は前回の「2−1課題仮説を構築する」の続きです。
2−2前提条件を洗い出す
課題仮説をさらに深掘りするためにジャベリンボードを用いる。
ジャベリンボードは、「カスタマー」「課題」「ソリューション」「前提条件」をセットにした仮説について、実際のカスタマーへのインタビューを通して妥当性を検証していくための便利な可視化ツール。
https://1q86inc.com/2018/11/16/post-2814/
以下のステップに沿って行う。
1カスタマーは誰か?
候補の中で最も確からしいカスタマーを実験1のカスタマー欄に書く。
2課題は何か?
カスタマージャーニーから導き出される課題仮説を問題欄にかく。
3ソリューションは何か?
3章で扱うため、ここではソリューションの妥当性は重視しない
4前提条件は何か?
ジャベリンボードはカスタマーが抱える課題仮説が成り立つ前提条件を検討するために活用するツール。
課題仮説が成り立つための条件を「インパクトの大きさ」と「検証が必要か」という2つの軸でマッピングして、最もインパクトが大きくてなおかつ検証が必要な前提条件を「最も不確かな前提条件」のところに貼る。
5検証方法などのようなものか?
見つけだした前提条件を検証する方法と基準を定める。例えば妥当性の確保のために〜人以上には聞く、〜割以上がそうだと答えたら前提が成り立つと判断するなど。
前提条件を見極める実験を何度も繰り返すことで検証の精度の高めていく。
2−3課題〜前提の検証
Get out of the building!
いよいよジャベリンボードの実験にて抽出した仮説が正しいのかどうかを想定カスタマーたちに直接確認する。
課題仮説の磨き込みなしにカスタマー候補と話をすることは無駄が多くなるので注意が必要。課題仮説のない状態ではまともな質問もできない。建物を飛び出すのは磨き込みの後である。
話を聞くには、新しいプロジェクトの初期ユーザーとなりうる「エバンジェリスト(伝道師)」や「アーリーアダプター」を選ぶ。彼らは自ら進んで情報収集を行い、判断する。他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる。(以下伝道師と記載する)
特徴としては
1ソリューションの予算を確保している
2製品の寄せ集めでなんとかソリューションを持っている
3積極的にソリューションを探している
4課題を認知している
5課題の探求をしている
がある。
普通の人に比べて、不都合な状況を言葉にしたり、それを解決するための代替案に対する批判的な意見を持ち合わせているため非常に参考になる。
伝道師の探し方
・知り合いからの紹介
・ツイッターの高度な検索で関連する単語を検索
・フェイスブックグループなどのフォーラム
・スポットコンサルティングを利用する
・関連するカンファレンスや展示会に参加(専門家コミュニティに入ることは有効)
・現場を訪れる
・社内で情報感度が高くて新しいソリューションを求める人を探す
・関係する業界人
中でも各分野の専門家からスポット的にコンサルを受けられる「ビザスク」などのサービスは課題の質を上げたいときに有効。
プロブレムインタビューの心得
伝道師とコンタクトできたら実際のインタビューに移る。
より深い本音を引き出すために周りに気を使わない1対1で行う。
インタビューする際の心得は5つある
1相手のことをよく知る
2相手の弟子になる
3相手の非言語コミュニケーションに注目する
4インタビューオーナーになる
5インタビュー相手の話を分析する
1相手のことをよく知る
伝道師としての5つの要件を満たすかどうかを確認する。
以下の質問をしてみて具体的な回答があれば伝道師である可能性が高い。
・現状の課題を解決するためにどのような代替案を利用しているか
・その代替案の不満なポイントは何か
・この課題を解決するためにいくらの予算を確保できるか
もし相手が深く課題について考えている人だった場合、複数回課題に対してインタビューすることやソリューションの仮説ができたときにMVPを使ってもらえないかお願いしてみる。報酬を渡してアドバイザーになってもらってもいい。
2相手の弟子になる
弟子になるくらいの気持ちでインタビューに臨む。
自分の持つ思い込みは脇に置いて、素朴な質問やそもそも論の質問をしてみる。(そもそもなぜこれが必要なのか?なぜ非効率のまま放置されているのか?)
その中で業界特有の状況や課題が見えてくる。こうした情報は何年も業界にいないとわからないことが多い。
情報を得るにはA:「教えを請う」→B:「根掘り葉掘り聞く」→C:「確認する」→D:「話から質問を見つける」という文脈に沿って質問していく。
A 教えを請う
相手は専門家であっても言語化することには慣れていないので、言語されていないことも含めて学ぼうとする姿勢が大切
B 根掘り葉掘り聞く
「ピッチ(自身のプレゼンテーション)せずに、聞くことに専念する」「黙ってカスタマーの声を聞く」という考え方が大切。オープンクエスチョンを投げてインタビュアーが黙ると相手のインサイトを深掘りしやすい。
「今こうやって話してて気づいたんですけど、〜」という話をどれだけ引き出せるのかが重要。
<聞くときのポイント>
「未来」ではなく「今」にフォーカスすることが、明日を想定する良いヒントになる。「この製品が出たらいくら払いますか」ではなく「現在課題の解決にいくら払っていますか」と聞く。
「どのくらいの頻度で?」というような抽象的でなく、「1ヶ月で何回?」というように具体的な質問をする。
結果だけではなく、どのようなプロセスを経たのかというストーリーを語ってもらうことで課題の背景やコンテクストを掴める。
自分の作っているプロダクトの機能について話すのは避けて、課題にフォーカスする。課題の大きさをある程度定量的に評価できるように質問する。
インタビューでありがちな間違いは、答えありき(自分たちの作りたいソリューションありき)の誘導尋問をしてしまうこと。これではカスタマーのインサイトにたどり着く効果的なインタビューにはならない。
C確認する
相手の発言を自分なりに解釈するのは危険。
相手の言ったことを繰り返したり、要約したり、自分の言葉に置き換えることで確認する。
これによってカスタマーも話をしっかり聞いてくれていると認識する。
D話の中から質問を見つける
インタビュアーの目的は用意した質問を投げるよりも、話をじっくり聞いて新たな質問を見つけていくことにある。カスタマーインサイトを効率的に集めることができる質問のスキルは限られた時間を最大限活かすために重要。
3相手の非言語コミュニケーションに注目する
インタビューをしていて相手が伝道師でないとわかることがある。そうした人からインサイトを聞くのは難しい。
真剣な表情か、インタビューに集中しているか、前のめりの態度か、普段から課題を意識しているか、と言った非言語コミュニケーションから伝道師かどうかを判断する。
4インタビューオーナーになる
創業者自身がインタビューを行い、カスタマーの視点に立ち、痛みに深い理解を持って、カスタマー目線でストーリーを語れることが、人が欲しがるものを作れる前提条件となる。
5相手の話を分析する
カスタマーの声は表面的であることが多い上に、情報量が多すぎたり断片的だったりする。
スティーブ・ジョブズ「You can’t just ask customers what they want and then try to give that to them. By the time you get it built, they’ll want something new.」(自らが欲しいものを明らかにするのはカスタマーの仕事ではない。カスタマーが本当に欲しいものを見つけるのはスタートアップがすべき仕事である。)
他の誰もが言語化できていない欲しいものを見つけることは決して簡単ではない。ユーザーが言語化した表現を分析し、その奥にある不完全な状態に対する心情を読み解くのは面倒だし、時間がかかる。しかし、創業者自らが、カスタマーが本当に欲しいものが何かを知っていることが大企業に対するスタートアップの最大の競合優位性になる。
インタビュー結果をベースに課題を言語化するのに有効なのがKJ法。手順は以下の6つ。
1インタビューデータを集める
2細かい単位に分けてカードに記載
3カードを平面状に展開してグループ化する
4グループごとに適切なラベルをつける
5グループ同士の関連性を書き出す
6課題の真因を言語化する
(http://idea-soken.com/kj-method)
KJ法のポイント
課題は「現状と理想のギャップ」である。相手の現状を知る質問と最終的に成し遂げたいことを知る質問を聞いて、現実を理想のギャップがどこにあるのかを明確にすることがポイント。
KJ法のポイントは以下の3つ。
1ボトムアップで分析する
先にグルーピングありきで考えるのではなく、生の声から全体をグルーピングしていく。
2単語に惑わされない
表面的な単語でなく、一段抽象化したところでグルーピングする
3全部のカードを分類する
その他のラベルをつけずに全てのカードをいずれかのグループに分類する。
実際のインタビューはノイズが含まれるし、最低でも5人にインタビューしないとロジックの大枠が見えてこない。著者自身はこのステージで最低でも20人近くインタビューしている。
インタビュー以外にもユーザーの実態を知る有効な手段としてジョブシャドーイングがある。調査者がユーザーの特定の活動を観察してその行動と経験を記録していく方法。日本人は欧米人に比べて自分の行動を言語化することに慣れていないためインサイトを得るのに有効なことがある。
仮説を修正していく
ここまでのカスタマーインタビューは自分たちが立てた課題仮説や前提条件を検証、また潜在課題の発見や現状代替案の不全性を明らかにするために行ってきた。
インタビューの結果をKJ法で総合的に分析して結果と学びをジャベリンボードの書き出す。
不確実な前提条件はたくさんあるはずなので1回のサイクルでカバーできなかったら、残りは次回以降のサイクルで検証する。このような仮説構築→実証のサイクルを5、6回繰り返すとフォーカスする課題が自ずと見えてくる。
仮説課題に対する痛みが深くなかったりするなど、仮説が反証されたとしても大事な学びとなる。反証された課題仮説は時間をかけるだけ無駄なので捨て去る意思決定が必要。
1つの課題に対して最低何人にインタビューすればいいのか?
目安は最低20人。ヤコブニールセン氏が打ち出した「マジックナンバー5」というコンセプトは、プロダクトの使い勝手の問題をあぶり出すテストで、同じセグメントのユーザー5人と話すと問題の80%は発見できるというものだ。インタビューを重ねる中で4象限でセグメントを分けるとすると20人のインタビューが必要になる。
多くの人がこれらの作業を面倒だと思うのではないか。早く形の見えるソリューションに取り掛かりたいと思うだろう。
よく考えて欲しいが、ここで紹介した作業に必要なものは3週間の時間とイタビュー相手の謝礼だけだ。
課題仮説の検証をせずいきなりMVPを3ヶ月と100万円かけて作り、課題解決にかすりもしないソリューションを作ったらどうだろう。何かを達成した気にはなるが、実は何も学んでいない。実際、そういうスタートアップが多すぎる。
最新のテクノロジーでデザイン性が高ければ、snsで拡散されて一気に広がると思ったら大間違い。スタートアップは一番最初の段階がある意味一番泥臭い。プログラミング、デザインスキルよりも仮説構築、コミュニケーションなどの対人スキルが重視される。
ファウンダー自身が現地・現場に行き現物(カスタマー)と対話と観察をする三現主義を徹底しなければいけない。
「カスタマーに対する理解が深まるにつれて提供するプロダクトの質がどんどん上がる」
面倒な作業だからこそ、差が生まれるのである。
CPFの終了条件は
・課題が存在する前提条件をしっかりと検証し、課題が存在することが確認できたか。
・課題を持っている顧客イメージを明確にできたか。
である。
コラム 創業メンバーは課題が腹落ちしているか
スタートアップは人生を賭けたプロジェクト。創業メンバーは人生の盛りある時期をスタートアップに10年と費やす覚悟が必要だ。アイデアの検討をしている段階までは良いが、課題仮説の検証を始める段階から、メンバーは自分たちに「自分は人生をかけてこの課題を解決したいのか」と質問を投げかけることになる。
ビジネスとして儲かりそうとか、スタートアップが流行っているからといった一時的な動機では今後のPMFを実現するための厳しい道を乗り越えられない。この時点で熱意のない人が創業メンバーに入るとのちの仲間集めや資金調達に支障をきたす。
創業メンバーは課題に対して非常に強い共感を持っていることが成功するための必須条件。
このため課題に対する熱意の強さでふるい落としが起き、メンバーが入れ替わるのは自然なこと。
スタートアップは仲良しの集まりでなく、荒波を一緒に航海するメンバーであることを忘れてはならない。
スタートアップにとっても良いファウンダーの条件は
・自分ごとの課題を解決した思っている
・パラノイア的(1つのことをひたすら考え続ける)な要素を持っている
・構築したい理想のUXの明確なイメージがある
・BtoBでは想定カスタマーと強いつながりがある
・プロダクトマネジメントの経験がある。
・発想に柔軟性がある。
特に重要なのが上2つ。自身がカスタマーの痛みを代弁しないと良いサービスは作れないし、goodではなくbestを提供するというこだわりがないと市場の独占はできない。
今回は以上です。
次回は第3章「ソリューションの検証」に移ります。
「3−1UXブループリントを作る」です。